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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和54年(ラ)9号 決定 1980年10月28日

抗告人 井口兼二

相手方 井口弘友 外一名

主文

原審判を取消す。

本件を富山家庭裁判所砺波支部に差し戻す。

理由

一  本件抗告の趣旨および理由は別紙抗告状(写)記載のとおりである。

二  抗告理由第二点について

原審は、相手方井口弘友が遺産である原審判添付不動産目録(三)の1の土地および同3の建物を使用していることによつて得る利益を年間約金一万二、〇〇〇円、これを管理するために要する費用を年間金一〇万円と認定し、これを差引計算して年間金八万八、〇〇〇円の管理費用が同相手方の負担となつているからこれを遺産分割に際し清算するのが相当であるとしている。

たしかに、右遺産のうちの建物については老朽化が甚しいため、その管理費用として年間金一〇万円を要するとの点は、一件記録中の各種資料にてらして首肯し得ないではない。しかしながら、右遺産を使用することの利益についての原審の判断には疑問を禁じ得ない。

即ち、原審は前記遺産の正常賃料相当額が右利益であるとみて、これを鑑定人○○○○の審問の結果および鑑定人○○○○の鑑定の結果によつて認定しているのであるが、右審問および鑑定の結果には右賃料額を算出するための判断過程が充分に示されておらず、特に右両名とも前記土地および建物の価格を数百万円と評価しているにもかかわらず、これを賃貸した場合の賃料が何故に年間一万円ないし一万二、〇〇〇円といういわば名目的な金額に止るのかという点についての説明もなされていないのであるから、これらを証拠として採用するに当つてはその証拠価値についての充分な吟味が必要であつたというべきところ、原審判は漫然とその結論のみを採用したものとみられ、従つて、前記認定には採証方法の誤りがあるといわざるを得ず、抗告理由中この点を指摘する部分は論旨理由があるといわなければならない。

三  前項の点とは別に、前記遺産中の建物の如く老朽化のため多額の管理費用を要する割にはその利用価値が低下している遺産について、現実に支出した管理費用と賃貸借を想定した場合の賃料とを単純に比較し管理費用が収益を上回ると考えるのは相当でないといわなければならない。

即ち、右建物がいかに経済性に欠けるものであつても、相続人らは精神的愛着をも含めてその存在に価値を認めているのであり、特に相手方井口弘友は遺産分割の結果自己が右建物を取得することを強く希望しているのであつてみれば、同相手方が現在右建物を全面的に利用しつつ建物保存のため経常的に必要な経費を負担している状態は同相手方にとつて少くとも収支均衡した状態とみるべきであり、他者に対し管理費用の償還を求め得るような関係とみることは合理的でないといわなければならない。

もつとも、管理費用の中に、建物の保存に必要な費用のほか、建物の改良のための有益費が含まれるとき、あるいは必要費であつても遺産分割の後にまでわたつて長期に償却されるべき一時的支出があるときなどで、収益を上回る管理費用を負担したものとみて分割に際し他の相続人から費用を償還させるのを相当とする場合のあることは否定できないが、原審判においては特に右に該当するような事情は認定されていない。

四  結局、相手方井口弘友が前記遺産を使用していることによる収益の額に関する原審の判断は、右いずれの観点からも相当でなく、この点において本件抗告は理由があるといわなければならない。

よつて、原審判を取消したうえ、この点につきさらに審理を尽させるため本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 黒木美朝 裁判官 清水信之 山口久夫)

抗告状

抗告の趣旨

原審判を取消す

との決定を求める。

抗告の理由

原審裁判所は、その主文「一」の「(3)」に於て、「別紙不動産目録(三)記載の各不動産を相手方井口弘友の取得とし」「申立人は相手方に対して、同上不動産について有する持分二分の一の所有権移転登記手続をせよ」と定めた。

すなわち、本件審判附属別紙「不動産目録(一)」記載の不動産については、申立人と、訴外時田あきと本件相手方弘友との間に於て、遺産分割審判が確定したものであるから、この点については、本件審判は全く無関係であり、本件では、本件当事者三名に於て共有するものであるから、これをその持分に応じた分割がなされなければならないわけであることは言うまでもない。

しかるところ、原決定は、本件分割対象たる不動産の中心を占める住宅、及びその敷地について、これはすべて相手方弘友の単独所存とすること。従って、申立人に対しては、その両物の評価額は「不動産目録(三)3記載の建物(評価額二五五万円)・・・・・・同目録(三)一、二の土地(評価額合計三八三万六、〇〇〇円)」とするから、合計六、三八六、〇〇〇円であるから、これを換価して、「金銭分割」することとすれば、三、八三六、〇〇〇×1/2=一、九一八、〇〇〇円を相手方から申立人に支払えば、足りることになるわけであるが、さらに、「四、遺産管理費用ならびに遺産による収益」なる項に於て、原審は、相手方弘友が、これに居住して、右不動産(建物、宅地)を管理してきたから、他の共有者に対して、管理費用の分担請求権があると共に、右建物及び敷地を利用して来たから、賃料相当額の利益を得ているものであるから、彼此、比較すると賃料は、鑑定人○○○○の鑑定並に○○○○の審問によれば年間一二、〇〇〇円管理維持費は、井口一美(弘友の父)の年間経費計算書等によれば建物について、年間一〇〇、〇〇〇円、であるから、差引八八、〇〇〇円の赤字であり、これが、昭和三四、三五年度は、利用益と管理維持費とは、同額と見て、三六年度から五三年迄、一八年間に八八、〇〇〇×一八=一、五八四、〇〇〇円の管理維持費は遺産の総額から減殺されなければならない。

と判示した。

第一点

しかしながら、抗告人は、原審に於て、本件不動産の評価について、昭和五二年二月二五日の審問廷に於て、○○審判官に対して、既に確定した遺産分割の審判の際に於ける、苦き経験上、今回は絶対に、不動産鑑定士をして、本件係争不動産の評価、鑑定をせしめられるよう要請したが、同審判官は、何故か、地元に居住していないとか、鑑定料が高額になるとか、不当な言辞を弄して、これに応せず、その後、抗告人は富山市の財団法人○○不動産研究所を訪れて、尋ねたところ、勿論富山県一円いずれでも、鑑定をすること、並にその鑑定料も三〇万~四〇万円であることを知つたので、昭和五二年一〇月二八日の審問に於て、右の事実を報告して、正規不動産鑑定士の鑑定を求めたが、同審判官は、これを容れないで、前記の者をして、鑑定せしめたものである。従つてこのような鑑定人による鑑定の結果に基いてなされたる、本件遺産分割は、例へば、〇〇〇三六、三七、番の宅地二筆合計、二五九四、八三m2は○○不動産研究所の昭和五三年二月の鑑定では、二〇、八〇〇、〇〇〇円であり、かつその月額正当賃料は、五八、六〇〇円である。(甲一、二号証)。しかるに原審無資格鑑定人はこれを三、八三六、〇〇〇円と鑑定しているのであつて、これでは、井波町牧場の固定資産税課税標準価額、九、一三九、六四三円の半額にも満たない。(甲三)。建物、農地についての評価についても同様であり、如何に不当な評価であるか、多言を要しない。原裁判所は、不動産鑑定の施行について、誤つた不当処置を行つたものである。

第二点

宅地建物の管理維持費用とその使用に伴う受益たる正常賃料の認定を誤つている。その正常な賃料として、年額一二、〇〇〇円(月額一、〇〇〇円)などとい数額が如何に不当なものであるかは、甲二号証によつても明白である。これも無資格鑑定人を抗告人の反対を押して採用した結果であり、それにしても、井波町○○○三六番の宅地建物の相当賃借料が月額一、〇〇〇円という鑑定を採用するようなことは亜然たらざるを得ない。

第三点

尚、農地、動産の評価についても、不当であるが詳細は追完する。

以上

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